転職活動中の「収入の谷間」に治験という選択肢
転職活動には時間がかかる。書類選考・面接・内定・入社と、一般的に3ヶ月から半年ほどを要するのが現実だ。在職中に活動できれば収入は途切れないが、退職後に腰を据えて活動する場合、その期間の生活費が頭を悩ませる。
そういった「転職活動中の収入の谷間」に治験を活用する人が一定数いる。入院を伴う試験なら7〜10泊で10万〜20万円程度の謝礼が受け取れるケースもあり、一般的なアルバイトと比較して時間あたりの謝礼が高い点が理由として挙げられることが多い。
ただし、治験には普通のアルバイトとは異なる特有のルールがある。転職活動のスケジュールと組み合わせる場合、あらかじめ把握しておかなければ思わぬトラブルになりかねない点もある。本記事では、実際の体験談を交えながら、転職活動中に治験を活用する際のメリットと注意点を整理する。
転職活動中に治験が向いているケース
治験参加が転職活動中に「合う」のは、どんな状況のときだろうか。
書類選考・応募を終えて「待ち」の期間
転職活動には「動いている時間」と「待っている時間」がある。応募書類を送った後、書類選考の結果を待つ期間や、一次面接と二次面接の間の数日間がその典型だ。こういった「谷間の時間」は、在宅で過ごすだけになりがちだが、日帰り試験や通院型の治験であれば、1〜2日の空き時間を活用できる。
日帰りの試験なら謝礼は5,000〜30,000円程度、通院型なら1回あたり7,000〜10,000円が相場だ。数回の参加で生活費の一部を補うことができる。
転職先の入社日まで「まとまった空き期間」がある場合
内定後、現職の退職手続きや引き継ぎが終わってから入社日まで1〜2ヶ月の空きが生じることがある。この期間に入院型の試験(7〜10泊程度)に参加する人もいる。入院中は外出制限があるものの、スマートフォンやノートPCの持ち込みが許可されている施設がほとんどで、読書や資格の勉強、動画視聴など自分の時間として使える。
参加経験者のなかには「7泊で謝礼をもらいながら、入院中に読めなかった本を全部読んだ。転職前のリフレッシュにもなった」と語る人もいる。
健康状態・参加資格を満たしている場合
健常ボランティアを対象とした第I相試験への参加条件には、BMI 18〜25程度・常用薬なし・既往歴の少なさ・非喫煙、などが含まれることが多い。転職活動中の20〜40代の健康な方であれば、条件を満たすケースは少なくない。スクリーニング検査(血液検査・心電図・血圧測定など)を経て参加可否が決まるが、条件を満たせば入院試験への参加が可能になる。
入院中の時間の使い方:体験者のリアルな声
治験の入院は「閉じ込められる」イメージを持たれやすいが、実態は多少異なる。施設内での移動や自由時間は確保されており、自分のペースで時間を使えることが多い。
参加経験者からはこんな声が聞かれる。
- 「スマホとノートPCの持ち込みがOKだったので、転職サイトを閲覧したり求人を整理したりできた」
- 「資格の勉強を進めようと思っていたが、実際に集中できた。普段より静かな環境で捗った」
- 「履歴書の見直しや自己分析のメモを書いた。面接に向けた準備ができた」
- 「施設内にWi-Fiがあったのでオンラインで情報収集できた。本も持ち込めた」
- 「生活リズムが整った。起床・食事・就寝の時間が決まっていて、不規則な生活が改善した」
入院型試験の初日〜2日目は採血の頻度が高く(数時間おきの採血が行われることもある)、睡眠が分断されることがある。ただし3日目以降は朝の採血のみになるケースが多く、日中は自由に過ごせる時間が増える。
「夜間採血で疲れた翌日に面接は避けたほうがいい」
一方でこんな声もある。「初日の夜間採血で睡眠が細切れになり、翌朝の状態がひどかった。退院後すぐに面接を入れていたが、集中力が落ちていて本来の力が出せなかった」。
退院直後は体への負担が残っていることも想定して、退院後1〜2日は余裕を持たせたスケジュールを組んでおくほうが安全だ。
転職活動中に治験を活用する際の注意点
スケジュールは固定・変更できない
これが最も重要な注意点だ。治験のスケジュール(スクリーニング日・投薬日・入院期間・検査来院日)は試験計画書に基づき厳密に設定されており、参加者の都合で変更することはほぼできない。
入院型の試験中に「面接の日程が入った」という状況になっても、原則として入院を抜け出して面接に行くことはできない。外出禁止の施設がほとんどで、規則を破れば試験から除外される可能性がある。
対策としては、入院日程を確定させる前に転職活動の状況を見極めることが必要だ。複数の企業から面接のオファーが来ている時期や、書類選考の結果待ちが複数重なっている時期は、入院型の治験に申し込むタイミングとして適していない。
転職エージェントへの伝え方
転職エージェントを利用している場合、「〇月〇日〜〇日は連絡がつきにくい期間があります」と事前に伝えておくと、その期間に面接を入れられるリスクが下がる。理由を「治験参加のため」と詳しく説明する必要はない。「入院が必要な検査があります」「旅行の予定があります」など、角の立たない伝え方で問題ない。
入院中にオンライン面接が可能かどうかは施設によって異なる。スマホやPCの持ち込みが許可されていても、通話を禁止している施設もある。スクリーニングの段階や説明会で確認しておくとよい。
謝礼の税務処理
治験の謝礼(負担軽減費)は雑所得として扱われる。源泉徴収されないことが多く、受け取り時は謝礼の全額が支払われるが、確定申告は自分で行う必要がある。
退職後に無職の状態で治験のみ参加した場合、年間の治験謝礼が基礎控除額(48万円)以内であれば所得税は課税されない。ただし国民健康保険料は所得を基に算定されるため、所得ゼロとして申告するよりも、謝礼を正確に申告したほうが最終的に正しい保険料計算になる。
在職中にアルバイトとして参加した場合、給与収入に治験謝礼が加わる形になる。年末調整でカバーされないため、雑所得が20万円を超えた年は確定申告が必要になる。謝礼の領収書やスクリーニング時の交通費(領収書またはメモ)は保管しておくとよい。
ウォッシュアウト期間を守ること
前回の試験への参加から一定期間(ウォッシュアウト期間)が経過していないと、次の試験に参加できない。多くの場合4週間〜3ヶ月程度が求められる。転職活動中に何度も参加しようとすると、このルールに引っかかることがある。
事前ヒアリングで必ず確認されるため、正直に申告する必要がある。ウォッシュアウト期間を守れていなかった場合、スクリーニングの段階で不合格になる。
転職活動中に治験に向かない時期
転職活動のなかにも、治験への参加を避けたほうがよいタイミングがある。
- 面接が多数入っている時期:書類選考を多数通過し、週に複数の面接がある状態では、入院型の試験との両立は難しい。
- 最終面接・内定交渉の時期:重要な連絡が続く時期に入院してしまうと、対応が遅れて印象を損ねるリスクがある。
- 体調が不安定な時期:治験の参加条件を満たせなくなるだけでなく、スクリーニングで不合格になり時間を無駄にしてしまう。
- 転職エージェントに多数の企業を同時紹介されている時期:日程調整が複雑になり、入院期間中に対応が求められる場面が増える。
参加前の準備:転職活動との両立を成功させるために
転職活動のフェーズを把握してから申し込む
治験の入院期間が確定したら、その期間中の転職活動への影響を事前に整理しておく。「応募中の企業のステータス」「直近の面接予定の有無」「転職エージェントからの連絡頻度」を確認したうえで、入院の日程を組み込んでよいか判断する。
応募・書類選考フェーズならば入院中に進めやすい。一次面接以降のフェーズが複数走っている状態では、入院型は避けたほうが無難だ。
登録・スクリーニングを早めに済ませる
治験への参加は、登録→ヒアリング→スクリーニング検査→合否通知→試験開始という流れをたどる。スクリーニングから試験開始まで1〜2週間かかることが多く、「来週から暇になる」という直前での申し込みは間に合わないことも多い。
退職が決まった時点、または転職活動の中休みが見えてきた時点で、JCVNやぺいるーとなどの登録サービスに会員登録だけ済ませておくと、案件が出たときにすぐ動ける。
健康状態を整えておく
スクリーニング検査では血液検査(肝機能・腎機能・血糖・コレステロールなど)、心電図、血圧などが確認される。転職活動のストレスや不規則な生活で体調が乱れていると、基準値を外れて不合格になるケースがある。
申し込みを検討している時期から、睡眠・食事・飲酒量に気をつけておくと、スクリーニング通過率が上がる。特にγ-GTPやAST/ALT(肝機能の指標)は飲酒の影響を受けやすいため、スクリーニング前の1〜2週間は節酒・禁酒が望ましい。
まとめ:活用するなら「転職活動の谷間」を狙う
転職活動中の治験参加は、スケジュール管理さえ誤らなければ有効な収入補助になりうる。謝礼の水準は通常のアルバイトより高く、入院中の自由時間を勉強・自己分析・読書に充てられる点も転職活動との相性が悪くない。
ただし、治験のスケジュールは参加者の都合で変更できない。「入院中に面接が入っても動けない」というリスクを理解したうえで、転職活動のフェーズ(待ちの時間・空き期間)と照らし合わせて参加するタイミングを選ぶことが重要だ。
謝礼は雑所得として扱われるため、年間20万円を超えれば確定申告が必要になる。税務処理の準備も忘れずに行いたい。複数の治験登録サービスに事前登録だけ済ませておき、転職活動の状況を見ながら参加のタイミングを判断するのが、無理なく活用するコツだ。
