「前の治験が終わってからどれくらい経てば次の治験に参加できますか?」――治験参加者から最もよく出る質問の一つだ。この期間のことを「ウォッシュアウト期間」あるいは「休薬期間」と呼ぶ。知らずに複数の試験を掛け持ちしようとすると、施設の照合システムで検出されるだけでなく、自分の体にも思わぬリスクが生じる。
この記事では、ウォッシュアウト期間の仕組み・なぜ必要なのか・種類別の参加間隔の目安を、分かりやすく解説する。複数の試験に参加したいと考えている人は、ぜひ最後まで読んでほしい。
「ウォッシュアウト期間」とは何か
ウォッシュアウト(washout)は直訳すると「洗い流す」。治験の文脈では、前の試験で服用した薬が体から排出され、次の試験への影響がなくなるまでの期間を指す。「休薬期間」とも呼ばれる。
この期間が設けられる理由は二つある。一つは参加者の安全のため。前の試験薬が体内に残った状態で次の試験薬を投与すると、相互作用によって予期しない副作用が発生するリスクがある。もう一つは試験の科学的な精度のため。前の試験薬の影響が残っていると、新しい試験薬の効果を正確に評価できなくなる。
「5半減期ルール」で考える
薬が体から排出される速さは、その薬の「半減期」によって決まる。半減期とは、血液中の薬の濃度が半分になるまでの時間だ。薬が体からほぼ完全に(97%以上)排出されるには、半減期の5倍の時間が必要とされる。これを「5半減期ルール」と呼ぶ。
- 半減期が6時間の薬(短時間作用型):5半減期 = 30時間(約1〜2日)
- 半減期が12時間の薬(一般的な内服薬):5半減期 = 60時間(約2〜3日)
- 半減期が1週間の薬(長時間作用型):5半減期 = 5週間(約1ヶ月)
- 半減期が数週間の生物学的製剤(モノクローナル抗体等):5半減期 = 数ヶ月
治験の「参加間隔」は、この5半減期ルールに加えて安全上のバッファを設けた期間として規定される。だから薬によって大きく変わる。
試験の種類別・参加間隔の目安
参加間隔は試験の種類によって異なる。以下はあくまで一般的な目安であり、各試験のプロトコル(実施計画書)に書かれた規定が優先される。
医薬品治験(健常者向け・通常内服薬)
最も一般的なパターン。前の試験終了後、3〜4ヶ月(90〜120日)が参加間隔の目安だ。この期間は業界慣行として広く採用されており、「4ヶ月ルール」とも言われる。
生物学的製剤(バイオ医薬品)の治験
モノクローナル抗体やタンパク質製剤など、生物学的製剤の半減期は非常に長い(数週間〜数ヶ月)。5半減期を計算すると、ウォッシュアウトに6ヶ月以上かかることも珍しくない。デュピルマブ(アトピー治療薬)やインフリキシマブ(関節リウマチ治療薬)などを過去に使用していた場合、その後の治験参加に制約が生じる場合がある。
食品試験・機器試験
食品や医療機器を対象とした試験は、薬物の血中残留を考慮する必要がない場合が多い。そのため参加間隔が短く、約1ヶ月程度で次の試験に参加できることが多い。コスメモニターも同様に、数週間〜1ヶ月程度の間隔が一般的だ。
同一試験内の複数回入院
「3泊4日を2回」というような、1つの試験の中で複数回の入院がある場合、各入院の間隔は試験計画書に明記されている。これは「ウォッシュアウト期間」とは別の話で、試験プロトコルに従えばよい。
「被験者照合システム」で参加歴は管理されている
「バレなければ同時に複数の治験に参加できる」と考える人がいるが、これは誤りだ。日本の主要な治験施設(臨床試験受託事業協会加盟施設)では、「被験者照合システム」が導入されており、参加者の氏名・生年月日・参加日などが施設間で共有されている。
スクリーニングの際に、この照合システムで前回参加から何日経過しているかが確認される。ウォッシュアウト期間が満たされていない場合、スクリーニングで除外される。だから隠して参加しようとしても、制度的に難しい仕組みになっているのだ。
万一、不正な参加が発覚した場合はその施設での将来の参加資格を失うリスクがある。参加履歴を正直に申告することが、長期的に安定した治験参加につながる。
ウォッシュアウト期間をうまく管理する方法
複数の試験に順番に参加したい人は、参加履歴をきちんと記録して管理することが重要だ。
記録しておくべき情報
- 試験名・施設名
- スクリーニング日・試験開始日・試験終了日
- 試験薬の名称(または種類:医薬品・食品・機器)
- 次の参加が可能な最短日(終了日+ウォッシュアウト期間)
次の試験応募のタイミング
参加間隔が3〜4ヶ月の場合、試験終了から2ヶ月後ごろから次の試験の応募を始めると、ちょうどよいタイミングになる。スクリーニングから参加決定まで2〜4週間かかることが多いため、少し余裕を持って動き出すのがコツだ。
食品試験・コスメモニターは医薬品治験より短いウォッシュアウト期間で参加できることが多いため、医薬品治験と食品試験を交互に組み合わせる参加者もいる。ただし、それぞれの試験の規定を必ず確認することが前提だ。
まとめ:ウォッシュアウト期間は「安全のための仕組み」
ウォッシュアウト期間は、参加者の安全確保と試験の科学的精度を守るために設けられた制度だ。一般的な医薬品治験では3〜4ヶ月、食品・機器試験では約1ヶ月が目安になる。施設間で参加履歴が照合されているため、正直な申告とルールの遵守が参加者本人の利益につながる。
治験への継続参加を考えているなら、参加履歴を記録し、次の応募タイミングを計画的に管理することが重要だ。モニコムの案件一覧から気になる試験を見つけたら、前回参加日とウォッシュアウト期間の条件を確認した上で応募してほしい。
